ゲイの芸


ポスター友人に連れられてゲイの街として有名な新宿二丁目に行ってきた。ちょっと違和感のある街並みで「メンズマッサージ」のお店もある。

目的は観劇なのだが、出演者は全員ゲイとのこと。

「ぺんぺん」という劇団の「瞼の母」(原作:長谷川伸)だった。

幼い頃に別れた母をようやく探し当てることができた渡世人の忠太郎であったが、母親はすでに再婚して料理屋を切り盛りする女将として幸せに暮らしていた。

最大の見せ場である再会シーンを引用させてもらう。


瞼の母

忠太郎が母親についに対面。

忠太郎の喜びと期待が混ざった感情が喋る事によってヒートアップしていく反面、母親おはまの表情が曇っていくのが、なんともつれなくてせつないのだ。

純粋に、子供のように母親を慕い、ただひたすら求め探してきた忠太郎。

女一人で切り盛りする身代、娘の縁談、世間とのしがらみ、様々な荷物を背負って生きているおはまにとって、九歳で死んだはずの息子が突然現れても、簡単に受け入れるわけにはいかなかったのだ。



まだ見ぬ母が不自由な暮らしをしていたら、せめてもの親孝行をしたいと、どんな時にも決して手をつけずに貯めてきた百両の金を取り出した忠太郎に、始めは騙り揺すりのたぐいかと疑ってかかっていたおはまも、生き別れの息子であると確信する。

しかし、良く訪ねてきてくれたと忠太郎を抱き締めてあげたいと思う気持ちと、ヤクザな兄の出現で一人娘の良縁に障りがでてしまうことへの恐れと、愛情の板挟みの状態に陥ったおはまは思わず、なぜ堅気でいてくれなかったのかと忠太郎を詰ってしまう。

そして忠太郎は悲しみの内にその場から飛び出していってしまうのだ。


開演待ち
母親に拒絶された忠太郎が『おっかさん、そりゃねぇよー』と泣き崩れるシーンで涙腺がゆるんでしまった。

ゲイの持ち味を生かした笑いあり涙ありでストーリーもしっかりしていて、趣味の劇団レベルではない。

毎年12月に公演をおこなっており、もう15年目だそうだ。

主人公はもちろん、脇を固める役者もキャラが立っていて、楽しく見ることができた。


主人公の忠太郎は無宿の渡世人である。つまり人別帳(江戸時代の戸籍)から外れた者のことで、法の保護の対象外にある。役人に捕まってしまうと、人足場(タコ部屋)に送り込まれたり、佐渡金山に流されたりしてしまう。

少数派であり周囲からキビシイ扱いを受けるであろうゲイの役者が役柄の無宿人と重なって見えた。

僕自身はゲイの気は全くないが、人の嗜好を他人が評価するのはオカシイだろと考えているので、ゲイへの偏見はない。

むしろ自らに対しての美意識があり魅力を持っている人が多いような気がする。


娘に説得され改心して捜していた母が去ってから、飛び出したい気持ちを抑えていた忠太郎が独白する。

『こうやって上の瞼と下の瞼を合わせりゃ、そこには小さい頃に想ったおっかさんが居らぁ』

ここで幕となってしまい、なぜハッピーエンドにならなかったのか、意外性を感じた。

原作者も悩んだらしく最後に忠太郎が姿を現して母と異父妹と感動の対面をするパターンも考えていたそうである。

主人公と同じく、原作者の長谷川伸も幼い頃に母親と生き別れており、上演後2年してからようやく逢うことができたとのこと。

捨てた母を恨む気持ちとそれでも強い思慕の情が混ざって複雑な感情だったのか。


観劇後にお茶する途中でミニスカ+ルーズソックスで制服を着た女子高生が目の前を横切った。

こんな所になぜ女子高生が?と思い、良く見ると50歳ぐらいのオジサン(もちろん)だった。

あまりの衝撃に呆然としてしまった。

世界は僕が理解しているよりはるかに複雑なようです。