パイロットフィッシュ


パイロットフィッシュ


仕事に忙しい毎日を過ごしていると、びっくりするぐらい変わっていない自分に気づくことがある。

もう学生でなくなって随分経つのに、卒業できなくて途方に暮れている夢を見ることがある。
こちらから別れを切り出した恋人のことは滅多に思い出さないのに、別れを告げられた恋人のことは今でも切なく思い出すことがある。



『人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない。』

パイロットフィッシュ」は、終始「僕」の視点から逸れないため、41歳の現在と22歳の昔の話が交差するストーリーに引きずり込まれる。

主人公とほとんど同世代で、学生の頃聞いた音楽に共通点があり、優しい文体と相まって一気に読むことができた。



パイロットフィッシュとは、本書の中では高価でデリケートな魚を飼う前に水槽の中に入れて環境を整えるために使われる魚のことだ。




熱帯魚百科(パイロット・フィッシュ)

水槽の新規立ち上げ時など、水質が安定しているか、または魚を飼育する環境となっているか、確認するためにとりあえず泳がせてみる魚のこと。テスト・フィッシュとも言う。

本書では「僕」が生きていけるための環境を準備していてくれた人や、「僕」が環境を整えている人の話が展開され、人がお互いに助け合って生きていく暖かいストーリーが続き、読後感は爽快だった。



だが叙情的なエピソードが散りばめられて、いつもクールな『僕』が格好良すぎる。

独身で料理が上手く22歳の恋人が居て熱帯魚と犬を飼っている40男ってのはあり得ないだろ。

でも気にせず没入しよう。今よりずっと若くちょっとバカだった頃のことを懐かしく思い出せる。



若い頃『つまらない大人にはなりたくない』と叫ぶ歌詞に共感した。

No Damage


僕はどうなっているだろう。

仕事の段取りや駆け引きを覚え、ずるく立ち回ることだけが上手くなっていないだろうか。



ふと自分があれから遠くに来てしまったなぁと思った時に読みたい本です。