乳海撹拌


シャムリアップからホーチミンに戻ってきました。ホテルにチェックインしてエントリーしています。

部屋に入るとセーフティボックスが壊れていました。クレームを上げたところ、修理にやってきたのですがいつの間にか居なくなってしまい、しばらくして新しいものを持ってきました。

ちょっと不安ですが、すべての現金とパスポートを持ち歩くのはリスキーなので使うしかないです。



シャムリアップではアンコール・トムとアンコール・ワットを廻ってきました。

ヒンズー教大乗仏教の寺院なのですが広いため、駆け足でポイントだけ廻っても半日ずつ掛かります。

通常はアンコール・トムのように縁起の良い東を向いて立てられているのですが、アンコール・ワットだけ西を向いています。おそらく、王墓となることを主目的として立てられたからではないかとのことです。

そのため、午前中はアンコール・トムを廻り、暑くなる昼は休憩して、午後からアンコール・ワットを廻るのが賢いようです。

規模はアンコール・トムの方が大きいのですが樹木による損傷がひどく、アンコール美術を鑑賞するならアンコール・ワットの方が良いです。

アンコール建築には、ヒンズー教を題材にしたレリーフが施されています。ヒンズー神話と仏陀を題材に取ったSFでロジャー・ゼラズニィの「光の王
」という長編があります。神話は文体が退屈なのですが、これは非常に楽しく読めます。愛読書の一冊なのでヒンズー神話には馴染みがあります。

王が変わるたびに王都として街を作るため、途中で王が亡くなると未完成のままで中断するそうです。

建設は労働者がおこなうので30年ぐらいで完成しても、その後にレリーフを彫る職人の数が比較的に少ないので、建物はできていても彫刻が完成していない箇所がいっぱいあります。



撮影してきた画像から少しずつ紹介します。今回のエントリーはヒンズー教天地創造神話を題材とした「乳海撹拌」です。

善神と悪神が協力してアムリタという不老不死の薬を作ろうとしました。ヒンズー3大神の一人のビシュヌ神が指揮を執ります。

善神と悪神の二手に分かれ、大蛇を山に巻き付け乳海に落として引っ張り合って撹拌します。その過程でいろんな生物が発生します。


事前の取り決めで、二手に分かれたどちらかでアムリタが取れたら、出てきた方が貰うことになっていました。

1000年掛けて作業を続けた結果、ようやく悪神の方にアムリタが取れました。ところが、ビシュヌ神が横取りしてしまいます。

そのため、善神と悪神がアムリタを奪い合って戦うのですが、アムリタを飲んだ善神は、殺しても死にませんから最後は勝利を収めます。


これでは、どっちが悪神か分かったものではありません。

こんなインチキを天地創造神話にして良いのでしょうか。ヒンズー教の神々は乳海撹拌に限らず、よく卑怯な手を使って保身に走ります。

神々が神々たり得たのは、正義があり公明正大だったからではなく、ライバルを蹴散らしてのし上がってきたのです。

そして自分の座を脅かす者を蹴落としているのです。

ヒンズー教の神話は、その意味ではリアリティがあり面白いのですが、勧善懲悪の価値観の下では、どちらが悪者か混乱してしまいます。

世界は我々が思うよりずっと複雑だということですね。

(2004.01.26補足)

同行の方に乏しいヒンズー教の知識を説明しているうちに思いつきました。

ヒンズー教の成立はアーリア人がトラヴィダ人を侵略する過程で成立した神話です。

善神、悪神は日本書紀との類似があります。善神は出雲の神々、悪神は大国主命などの土着の神とすると共通点がありますね。

古代インドの土着の神であるルシャナは、征服されて善神の仲間入りをした後、仏教に取り込まれてルシャナ仏(大日如来)になっていたかと思います。