蛇にピアス
今日は東京へ日帰り出張してきました。
現在設計しているシステムの規模は小さいのですが、短納期、低予算です。制約条件の中でいかにお客さまに満足いただけるシステムを構築するか。お客さま企業の担当の方は穏やかな良い人ですので、ちょっと厳しい条件でも、かえってやる気が出ます。
はい。好き嫌いで仕事してますが、何か?
月刊「文芸春秋」、100万部に
史上最年少で芥川賞に決まった綿矢りささん(20)の「蹴りたい背中」と金原ひとみさん(20)の「蛇にピアス」が掲載されている月刊「文芸春秋」3月号が13日、発行部数100万部に達することになった。
村上龍が選評の中で、若い女性がダブル受賞したことにより出版不況が好転するのではないかという軽薄な論調を切り捨てているのですが、文藝春秋が大増刷していますので、少しは効果があったと言うことでしょう。
僕も久しぶりに買いましたし。まさにミーハーですな。
さて、本題に移ります。
舌先を裂いて蛇の舌のようにしているアマという男と同棲するようになったルイが、その行為に強く惹かれ同じように舌を裂こうとして舌にピアスをして、刺青(いれずみ)を背中に入れます。
読んだだけで痛そうです。僕は真っ平ごめんです。
他の登場人物もサディストの彫物師など身近にいて欲しくないやつらばかりです。ルイもたまに宴席でコンパニオンのアルバイトをするぐらいですし、同棲しているアマもフリーターです。
田舎でシステムエンジニアをしている僕の回りにはこんな連中はいません。嫌悪感とまではいきませんが、かなり引きながら読んでいました。
ところが意外と登場人物が純情なのです。喧嘩っ早いアマは、アルバイトが終わると一目散にルイが待つ部屋に帰ってきて、セックスをした後、乳首を口に含みながら幸せそうに眠ります。
ルイは彼に紹介された彫物師に墨を入れられるたびにセックスしているのですが、アマのことを軽くイジメながら仲良く同棲しています。
楽しそうな、だけど荒んだ生活描写の中で、ふと「私」の心情が吐露されることがあります。
なぜ耳に大きなピアスを付けるのか、なぜ刺青を入れるのか、なぜ舌を裂こうとするのか、懸命に伝えようとしています。
ゆっくり歩く私の足に、子供がぶつかった。私の顔を見て、素知らぬ顔をするその子の母親。私を見上げて泣き出しそうな顔をする子供。舌打ちをして先を急いだ。こんな世界にいたくないと、強く思った。とことん、暗い世界で身を燃やしたいとも思った。
サディストである彫物師も、同棲している彼もルイを愛しています。家族の愛やサラリーマンとOLの愛とはずいぶん違った表現ですが、まぎれもない愛があります。
「なあ、もしもお前がいつか死にたくなったら、俺に殺させてくれ」
「たとえお前だろうが、お前のその体を殺すことは許さない。自殺するんだったら、その時は俺に殺させてくれ。俺以外の人間がお前の生を左右するなんて、耐えられないんだ。」
愛情からどんどん不純物を取り除いていくと、いつの間にか殺意になってしまうことがあります。
殺したくなるくらいの愛情を誰かに注いだことがありますか。
殺されるほど愛されたことがありますか。
短いですが、きちんと余韻が残る良い小説です。まだ文藝春秋は売っているようですので、見かけたら買って読んでみてください。