ラ・ロシュフコー箴言集


運と気まぐれに支配される人たち―ラ・ロシュフコー箴言集
ラ・ロシュフコー箴言集」を読みました。副題は「運と気まぐれに支配される人たち」です

フランスの中世から近世への過渡期に作成され、名声を集めた箴言集です。

時代は17世紀のフランス。宰相リシュリューが権勢を振るい、後継者であるマザランが権力を集め、太陽王ルイ14世絶対王政を敷くための素地を作っていたころです。

作者のロシュフコーは、名門貴族の総領として生まれました。

戦場で才能を発揮し、やがてパリで社交界に顔を出すようになり、政治にまきこまれていきます。

しかしロシュフコーが政治に関わるようになったのは、いずれも女性絡みです。ある一派に顔を出すようになってから親しくなるのか、親しくなったから荷担するようになったのかは分かりませんが、女性と懇ろになって政争に巻き込まれていきます。

アホとしか言いようがないのですが、うらやましいアホです。

しかし、フロンドの乱などロシュフコーが荷担した方は、いずれも敗れてしまい、女性にも捨てられてしまいます。

前半生は、戦場で成功し、政治で敗退し、失意の日々を送っていたロシュフコーでしたが、後半生で文筆家としての名声を得ます。

それは、フランス特有の箴言集(マキシム)というジャンルでした。

格言が道徳を説くものであれば、箴言は人間を説くものです。

そこにはフランス固有のちょっと醒めた「エスプリ」があります。


しかし、実は僕は箴言集や格言集を読むのは苦手なのです。

ぜんぜん前後に関連がないので、さっき読んで共感したことが、すぐ次のページで疑念を投げかけられたりするのです。

それには混乱してしまいます。


こうした箴言集は、枕頭に置いておき、就寝前にパッと開いたところを2〜3読むのが本来の読み方だそうです。

なるほど。

では、それに従って、読んだ中で、自分に響いた箴言を上げてみます。


『人間の心を発く(あばく)箴言に、こんなに議論が沸騰するのは、自分の心が発かれるのを恐れるからだ。』

たぶん箴言集のようなものは、読む時の気持ちや状況によって、ある時は共感した部分が、またある時にはぜんぜん響かなかったりするのでしょう。

だから、今読んで響いた箴言は、僕の今の状態を表しているのです。


『われわれに足りないのは、力よりも意思である。われわれが、物事を不可能と思いこむのも、とかく、自分自身に言い訳するためだ。』

リコール署名に踏み切る時に、この一句を読みました。奮い立ちました。


『...たいていの人が、自分に言われたことに正確に答えるより、自分の言いたいことの方に一生懸命になる。...相手の言うことには上の空で、自分の言いたい話題に早く戻ろうとする様子が見てとれる。これでは、人に好かれたり、人を説得したりするのはとうてい無理だ。強引に自分の勝手気ままを押し通すことになってしまう。よく聞き、よく答えることこそ、会話における最も完成された態度なのだが、なかなかそこまでは考え及ばないのだ。』

『少しの言葉で、多くのことを言って聞かせるのが大器の印である。反対に、小器には、大いに喋り、なんにも言わぬ、という才がある。』

署名を集めに廻っている時に、調子に乗って説得しようと思ってはいけません。

同じ対象について同じ視点で見つめ、共感を納得を心掛けないとイケナイのです。


『理路整然たる意見に、あれほど頑固に反対する人がいるのは、物わかりが悪いと言うより、とかく、自尊心のせいなのだ。つまり、賛成派についても今さら先頭には立てないし、そうかといって人のあとにつくのも癪なのだ。』

リコールを阻止しようとする町長後援会は、なぜあんなに固執するのでしょうか。

陰でコソコソして楽しいのでしょうか。もっと正々堂々とやった方が気持ちいいでしょうに。

そうは言っても、今さらそれはできないのでしょうね。

だから自滅するようなことをするのでしょう。


しかし、自分と意見が違うからと言って、相手を否定してかかってはイケマセン。

『われわれは、自分の意見に与する人でないと、良識の人とは考えぬ。』

ということをキモに銘じないとイケナイです。


署名を集めに廻って、ヒドイことが続いて挫けそうになった時に、響きました。

『弱い人は、誠実ではあり得ない。』

自分に対しても人に対しても誠実であり続けようとするのであれば、強くなければイケナイのです。

しかし同時に、強くあり続けられる人は非常に少ないのです。


ハガキ投票から、リコール署名に踏み切って、大変な思いもしましたが、評価していただける人もいました。

とても嬉しかったです。

『運命が、われわれの美徳と悪徳を照らし出す。あたかも、光が事物を照らし出すように。』

『誉められて、それにふさわしくありたいという気持ちが、われわれの美徳を強める。才知や、勇気や、容色に与えられる誉め言葉は、それらがいや増すのに貢献する。』

『われわれは、自分の真価によって、心ある人に認められ、星の回り合わせによって、世間に認められる。』


しかし、評価されたかと言って、増長するのはイケマセン。

『われわれは、自分の能力以下の仕事についていると、偉く見える。が、能力以上の仕事につくと、とかく、つまらなく見える。』

『名声を得ても、それを支えてゆく力がなければ、かえってそれに圧しつぶされる。』


成功すると、自分は何でもできるんだと思いこんでしまうのでしょうが、人にはそれぞれ、得手不得手、向き不向きがあります。

『人間一人ひとりの才能には、それぞれの樹木と同じく、それぞれ固有の特性と働きがある。最良の梨の木といえど、最もありふれたリンゴの実をつけることはできないし、最もすぐれた才能といえど、最も平凡な才能と同じ働きはなし得ないのだ。』


大切なのは、満足することです。

『この世でもっとも幸せな人とは、わずかなもので満ち足りる人のことである。偉人や野心家は、この点、はなはだ惨めである。彼らを幸せにするには、無限の財宝が要るのだから。』

「吾唯足を知る」ですね。