ホワイトカラー・エグゼンプションは焼き畑式農業か
来年度の国会では労働制度が大きく変わる法案が提出されるらしいです。
【夕刊キャスター】労働制度改革 労使とも反発、議論は袋小路
http://www.sankei.co.jp/news/060724/evening/25bus002.htm
労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会が、労働時間のあり方や新たな労働制度の導入について議論してきたが、18日に予定していた中間報告のとりまとめを見送った。検討してきた内容に対して、労働者の代表である連合などと、使用者側の代表である日本経団連などが、ともに反発しているためだ。
中間報告に向けた素案には、次のような内容があった。時間外労働が月30時間を超える場合、残業代の割増率を現状の25%から50%に引き上げる、年収が高い労働者は労働時間規制の対象からはずして残業代をなくし、「自立的労働制度」の対象とする−など。
労働時間規制の適用除外は「ホワイトカラー・エグゼンプション」というキーワードで呼ばれます。
現行の裁量労働制の拡大ですね。社員定額制使い放題の導入。携帯電話の定額制は歓迎ですが、給与の定額制はどうなんでしょう?
雇用者側にとってのメリットはあまりなく、使用者側にとってのメリットが目につきます。
残業代の割増率アップは正社員の雇用増加を狙ったものでしょうが、ホワイトカラー・エグゼンプションとセットになると、一気に定額制が普及してしまうのではないかと懸念しています。
システム開発プロジェクトの本をたまに読むのですが、アメリカで書かれた本には「隠れコスト」という言葉が出てきます。
アメリカのシステム技術者は固定給で雇用されていることが多く、開発が忙しくなって深夜残業や休日出勤が続いても、プロジェクトの収支には表れないのです。
しかしムリを重ねた結果は品質に悪影響が出てきますし、程度が過ぎると燃え尽きてしまってリタイアしてしまいます。
だからきっちりとプロジェクトマネジメントしないと、却ってコストが掛かってしまうという論調です。
ホワイトカラー・エグゼンプションを導入するに当たっては、成果主義の導入とセットにしてマネジメントしたいようです。
確かに仕事をしていないホワイトカラーはいっぱいいる。一日中エクセルファイルを作っているだけの人とか。
そういうやつに高い給料を払いたくないという経営者の気持ちもよく分かる。
しかし成果主義を安易に導入しただけだと短期的な目標達成を重要視するようになります。
なによりシステム開発のような知識集約型の労働について、成果を計測するのは難しいです。
また、開発プロジェクトでは早めに問題点を明らかにして、プロジェクトメンバーの総力で解決に当たらないといけないのですが、悪い報告が集まりづらくなってしまうという致命的な欠陥があります。
焼き畑式農業や底引き網漁法で一時的に収量は上がりますが、資源の乱獲により収量が低下します。そうしたら次の場所で乱獲を繰り返し、やがて資源が枯渇してしまいます。
成果主義の導入などという非現実的な方法を挙げるのではなく、マネジメントの失敗に対してのペナルティが課せられるような施策と併せて進めるべきだと考えます。
辞めることが不利益にならないよう制度的に保証しておけば、経営や労務で失敗があった場合、雇用者がどんどんと辞めていき、事業が成り立たなくなります。
このままの社会保障制度の下でホワイトカラーエグゼンプションが導入されると、社会の構成員という資源が収奪され疲弊してしまいます。
その結果、少子化に拍車が掛かり、社会の存続を危うくすることになるのではないかと危惧します。