合併についての考察


市町村合併と地域のゆくえ  岩波ブックレット 560
東京に住む友人より都会に住んでいると合併の問題点がわからないとのメールがありました。

良い機会なので考えるところをまとめてみます。


現在、日本で気運が盛り上がっている合併は「平成の合併」と呼ばれています。

これまで「明治の大合併」「昭和の合併」がありました。

共通するところは、いずれも市町村が望んで合併したのではなく、中央政府からの命令により合併させられていることです。

今回の合併も同様に、地方が望んで合併しているのではなく、中央政府からの恫喝に等しい指示により合併させられています。

地方自治体を統括するのは、旧自治省、現在は総務省の各自治局ですが、実態は自治を進める役所ではなく、中央集権体制による統治を進める役所ですので、自治省ではなく統治省とした方が実態に合っていたと思います。


どう乗り切るか市町村合併―地域自治を充実させるために
恫喝する手段の筆頭は、地方交付税交付金の減額です。確かに交付金は中央から地方への所得移転であり、大都市部住民からすれば納得がいかないのでしょうが、それは中央が地方から収奪した富を再分配するという側面があることを忘れてもらっては困ります。

なぜ東京電力原子力発電所東北電力管内の新潟や福島にあるのか。

なぜ新潟の水力発電で首都圏のJRを動かしているのか。

地方はこれまで、人材、資源、資金などの供給源である後背地として機能してきました。

中央は単独で繁栄を達成したのではなく、地方の資源を収奪することによって今日の繁栄を築いたことを忘れているのではないでしょうか。



地方から上京した学生が親の仕送りをもらって大学を無事卒業し高給取りとなり親に仕送りをしています。しかし浪費癖が身に付き、借金を重ねたあげく給与カットにあい、仕送りを減額すると一方的に宣言してしまいます。年老いた両親の生活が成り立たなくなりました。子供はこっちも大変なんだから、そっちはそっちでやってくれと言い放ちます。



一般にこういう子供のことを恩知らずと呼びますね。


次に行政事務の移管があります。権限の委譲といえば聞こえは良いのですが、事務負担も大きくなります。人手不足の役所は一段と忙しくなります。先ほどの親不孝息子の例を続けましょう。

息子には子供がいます。田舎の両親にしてみればかわいい孫です。孫という名の宝物ですね。この子供の面倒を見るように息子は頼んで来たのです。

大切な孫の面倒を見ないわけにはいきません。厳しい家計の中、両親は孫を引き取って養育することにしました。ここまでいくと人でなしです。


また、多くの市町村が合併して自治体が広域化することによるデメリットもあります。

地域によって重点的に力を入れる政策には差があるため、合併によって広域化することで、ある地域によっては必要な政策が、別の地域では不要だったりします。

子供が少ない過疎地域には老人福祉、介護が必要だが、子供が多い新興住宅地には教育や公園整備などが重点施策です。

若者が多ければ、成人式をやっても良いが、成人が一人もいない地域にとっては無駄金でしかないです。

そういった地域ごとの事情を無視して、一律に行政サービスをおこなっても住民の福利厚生は良くなりません。

地域ごとの特性を活かした自治をおこなうのであれば、あまり大規模すぎると却って不都合です。


そうは言っても中央政府の強権には逆らえませんので、何とか住んでいる地域が埋没しないよう議論しながら進めていくしかないのが現状です。


さて現在、市町村合併が各地で迷走しているのは、行政や住民の問題だけではありません。

最大の問題は、国の方針が明確になっておらず、今後20年30年といった長いスパンで地方統治をどうしていくのか、きちんと決まっていないからです。

諮問会議などで委員が今後の考え方を小出しにして反応を窺っています。非常にいやらしいやり口で嫌悪感を覚えます。

先のことなど誰も分かりませんが、現実主義に走るあまり、理念や理想がないままで地方統治のやり方を決めていこうとしています。

「どうやるのか」より先に「何をするのか」を決めるのが政治の役割であり、実現方法は後で議論するのが本筋だと思うのですが、これまでの放漫財政のつけを最終的に地方に廻そうとしているだけのように見えて仕方がありません。



無知、無能、無責任に加えて怠慢、不人情と来たら、リーダーの資格はないと思うのですが、いかがでしょうか。



人類史に名を残すマハトマ・ガンジーの碑文には彼の箴言が刻まれています。


http://www1.fctv.ne.jp/~masala/mahatma.html

七つの社会的罪 Seven Social Sins

1.理念なき政治 Politics without Principles

2.労働なき富 Wealth without Work

3.良心なき快楽 Pleasure without Conscience

4.人格なき学識 Knowledge without Character

5.道徳なき商業 Commerece without Morality

6.人間性なき科学 Science without Humanity

7.献身なき信仰  Worship without Sacrifice


旧統治省の役人には何項目当てはまるでしょうか。そして地方を見捨てようとしている都市住民はどうでしょうか。


ところで小泉首相のいう構造改革は響きはよいのですが、抽象的すぎて、受け取る方によってさまざまな解釈がありました。ここに来てようやく実態が明らかになりつつあります。

僕が期待した政官財による癒着を無くす、寄生虫のような既得権益層を排除するといった方向には進まず、弱者切り捨てによる競争社会の実現が目的のようです。

前へ前へと進んでどうしようというのか、何を目指しているのか、目標もなく取り憑かれたように生産性や効率のみを追求するのであれば、理性なく行動するけだものと同じです。立ち止まって「表象」だけでなく、「意志」の存在に思いを馳せることが必要です。


合併問題に関心を持って自分なりに調べているうちに、現在の日本が陥っている混迷の深さが見えてきました。

それは、これからどのような社会を作っていくか、一時的に目標を見失いとまどっているだけだと思います。

日本は地理的なハンディや資源の乏しさを克服して世界でもトップの豊かな社会を作ることに成功しました。それは十分に誇って良いことです。近隣諸国の経済成長は著しいですが、他人の成功を見て成功者が焦ってはイケマセン。素直に賞賛し、謙虚に評価して、利点を取り込んでいけば良いのです。

現在、高い経済成長率を誇る地域もやがて目標を達成して戸惑う時が来るでしょう。日本はそれを先行して経験しているだけなのです。今のうちに参考にしてもらえるよう、もっと先行して戸惑いを克服してさらに豊かな社会を築き上げるよう、一人ひとりで考えて行動すれば良いだけだと考えます。